もう一人のY君

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(数学)「等しい」と「同じ」

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 「当たり前」に解釈していたことが, 厳密に扱う際にそうとは限らないことはしばしば起こりえます.

 

thetheorier.hatenablog.com

 先日紹介した「任意」と「すべて」のようにこの2語についてもその性質を持っています.

 

[Contents]
 

 

数学における「同じ」とは

 「等しい」についてはさておくとして, 数学における「同じ」とは何か.

 

 早々に結論を言ってしまえば, これは「同値であること」と言えます.

 

 同値, 実際には「同値関係」であるとは「ある意味で等しい」, 或いは「同一視できる」という, 「等しい」よりも緩い関係を指します.

 

 より具体的には, ある対象の集まり { \displaystyle S } について, { \displaystyle S } の任意の2元(要素)における関係(条件) ~ が以下を満たすとき, ~ は { \displaystyle S } 上の同値関係と言います. 

 

[定義:同値関係]

(反射律) { \displaystyle a ~ a }

(対称律) { \displaystyle a~b\Rightarrow b~a }

(推移律) { \displaystyle a~b, b~c\Rightarrow } { \displaystyle a~c }

 

 一般的に, 条件が付くと縛られるイメージですけどね.

 本来等式関係でない関係でも, 「同じであると見なす」, これが同値関係です.

 

 名前は知らなくとも, 例えば

  • 等式関係 (言うまでも無く等式関係は同値関係です)
  • 図形の相似, 合同
  • 合同式 (曜日) 

といった場面で当たり前に使っています.

 

 例えば, ある月の1日と8日は, 日付としては全く異なりますが, 「同じ」曜日のため, その範疇では「同じと見なせる」わけです.

 

 我々がこれらを自然に理解こそすれ, 違いを指摘するには初等数学では難しいところがあります.

 同一視, そして同値関係というアイデアは数学において画期的な存在ですが, 残念ながら高校数学までですらそれをハッキリ論ずることはしません.

 別に高校数学が悪いというわけではありませんよ?

 

 「等しい」と「同じ」の違いが, 何となくわかるでしょうか?

 

 

既約分数と可約分数

 本当は「可約有理数」と言いたい所ですが既約分数に合わせてこうこう呼ぶもののようなのでこちらを使います.

 

 さて, この「等しい」と「同じ」の解釈において, 記事TOPにもある { \displaystyle \frac{1}{2} } と { \displaystyle \frac{2}{4} } はどう扱えば良いでしょう?

 

 2つは, 後者を約分すれば前者に等しくなります.

 しかしそれを構成している分母, 分子は同じではありません, これをどう解釈すれば良いでしょう?

 

 1ℓの水を2人で分ける, 2ℓの水を4人で分ける…としたらどうでしょう?

 結果は同じ存在ですが, それに至る経緯は異なります.

 

 

同値関係・商集合

 先程の「曜日」を例にして考えてみましょう.

 任意の月における日の曜日は, 例えばツェラーの公式からも分かる通り, 例えば0, 1, 2, ..., 6の7種類のいずれかによって表すことができます.

ツェラーの公式

ツェラーの公式(ツェラーのこうしき、Zeller's congruence)とは 西暦( グレゴリオ暦または ユリウス暦)の 年・ 月・ 日から、その日が何 曜日であるかを算出する公式である。 クリスティアン・ツェラー ( Christian Zeller ) が考案した。 ユリウス通日 を求め、そこから曜日を求める計算と本質は同じである。 年 月 日の曜日を求める。 ただし、 1月と 2月は、前年のそれぞれ 13月・14月として扱う。たとえば、2016年1月1日・2月1日は、2015年13月1日・14月1日とする。また、 紀元前 年は西暦 年として扱う。たとえば、紀元前1年・前2年・前3年は、0年・-1年・-2年となる。 曜日を表す は次の式で求められる: は グレゴリオ暦 (Gregorian) か ユリウス暦 (Julian) かで変わる項で、 ただし 。 はxを超えない(x以下)の最大の整数( 床関数)、 は を で割った 剰余である。 と は、(西暦が4桁の場合)西暦の上2桁と下2桁を表す中間変数で、たとえば2016年なら、それぞれ20と16になる。 は、0~6で土曜日~金曜日を表す。現在標準的な ISO 8601 の

 具体的にはこれは「日付を7で割った余り」と言いかえることができます.

 すなわち, 

2つの日について, 7で割った余りが等しいならば, 2つは同じと見なす

とするのです, これが曜日を使った同値関係です.

 

 キチンと書くならば,

 

{ \displaystyle ~:7|a-b }

 でしょうか.

 実際これが同値関係になるのか, 確かめてください.

 

 

同値関係から見た整数と有理数

 ここは地味に難しいところがあるので分かる方は読んでみてください.

 

 同値関係を利用することで, 整数から有理数を構成することができます.

 そしてこの同値関係を理解することこそが, 「等しい」と「同じ」を明確に分けて考える本質でもあります.

 

 整数 { \displaystyle \mathbb{Z} } における任意の整数 { \displaystyle a, b, c, d } (但し { \displaystyle b, d \neq 0 } ) について, 同値関係 { \displaystyle (a, b)~(c, d) } { \displaystyle \bigl((a, b), (c, d)\in\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\backslash \{0\} \bigr) }

 { \displaystyle ad = bc }

と定めるのです.

 折角なので検証してみましょう.

 { \displaystyle (a, b), (c, d), (e, f)\in \mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\backslash\{0\} } とします.

 

(反射律)

 { \displaystyle \mathbb{Z} } は可換環なので, 任意の要素 { \displaystyle a, b } について

{ \displaystyle ab = ba }

は明らかです, よって { \displaystyle ~ } の定義より { \displaystyle (a, b)~(a, b) } が成り立ちます. □

 

(対称律)

 { \displaystyle (a, b)~(c, d) } を仮定すると, { \displaystyle ~ } の定義より

{ \displaystyle ad = bc }

が成り立ちます.

 等式をひっくり返し, 乗法可換であることを利用すればこの等式は

{ \displaystyle cb = da }

となります, よって再び { \displaystyle ~ } の定義より

{ \displaystyle (c, d)~(a, b) }

が成り立ちます. □

 

(推移律)

 { \displaystyle (a, b)~(c, d), (c, d)~(e, f) } を仮定すると, { \displaystyle ~ } の定義より

{ \displaystyle ad=bc, cf=de }

となります.

 辺々かけ合わせると

{ \displaystyle adcf=bcde }

であり, { \displaystyle d\neq 0 } であることから

{ \displaystyle acf=bce }

 です.

 変形して

{ \displaystyle acf-bce=0 }

{ \displaystyle \Leftrightarrow c(af-be)=0 }

であり, 整数(環)は零因子を持たないことから { \displaystyle af-be= 0 }, よって { \displaystyle af=be } となり, { \displaystyle ~ } の定義から

{ \displaystyle (a, b)~(e, f) }

を得ます. □

 

 これによって { \displaystyle ~ } は同値関係であり, 従って { \displaystyle (a, b)~(c, d) } となるような { \displaystyle (a, b), (c, d) } は同じと見なすことができます.

 

 { \displaystyle \mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\backslash\{0\} } から任意に一つ取ってきて, それと同値な要素をすべて集めたものを「同値類」と言います, つまり

{ \displaystyle [a, b] := \bigl\{ (x, y) | (x, y)~(a, b) \bigr\} }

を指します.

 

 同値類の意味するところは, 同値関係によって得られた「グループ分け」によって対象を類別したものを指します.

 例えば学生は一人一人違いますが, 学校のいづれかのクラスに分かれています.

 対象は学生, 同値類はクラスというわけです(うまいことに, 「類」というのは英語でclassです).

 

 例えば上の整数から作り出した同値関係による同値類 { \displaystyle [1, 2] } とは, { \displaystyle 1\times y = x\times 2 } を満たす整数 { \displaystyle x, y \bigl(y\neq 0\bigr) } の組 { \displaystyle (x, y) } すべてを集めた類ということになります.

 ここで例えば { \displaystyle [1, 2] }{ \displaystyle [2, 4] }  は等しいことが分かると思います.

 同じ類であればどの要素であってもよろしいわけで, この { \displaystyle [a, b] } に相当する { \displaystyle (a, b) } は, ここでは「代表元」とも言われます.

 

 そして同値関係である集合とその関係の組 { \displaystyle (S, ~) } における同値類を要素として, 新たに代数系を作り出すことができます.

 

 その前に「商集合」を説明しましょう.

 

[商集合]

 集合 { \displaystyle S } とその同値関係 { \displaystyle ~ } による同値類 { \displaystyle [a] } をすべて集めたものを商集合と言う.

{ \displaystyle S/~ := \bigl\{[a] | a\in S \bigr\} }

 

 商集合は, 自然な演算を与えることで環という代数系になります, つまり整数 { \displaystyle \mathbb{Z} } 上の先の同値関係 { \displaystyle ~ } において,

 

{ \displaystyle [a, b]+[c, d] := [a+c, b+d] }

{ \displaystyle [a, b]\times[c, d] := [ac, bd] }

 

とすれば, 商集合 { \displaystyle \mathbb{Z}/~ } は有理数と同じふるまいをするのです.

 

 実際この商集合がこの加法と乗法の定義で有理数が持つ各性質を持ち合わせているか, 確かめてみてください.

 

 そしてこのようにして得た商集合 { \displaystyle \mathbb{Z}/~ } の要素 { \displaystyle [a, b] } を, 改めて { \displaystyle \frac{a}{b} } と書き表してみれば, これはもう有理数そのままわけです.

 なおここで { \displaystyle b=1 } とすれば { \displaystyle \mathbb{Z}/~ } は元の整数 { \displaystyle \mathbb{Z} } と構造的にも同じになってしまいます.

 つまり「有理数は整数を内包する」ことも分かるのです. 

 

 

1/2と2/4の関係

 蛇足な話で長引いてしまいましたが, これを以て考えると { \displaystyle \frac{1}{2} } と { \displaystyle \frac{2}{4} } はどう評価すれば良いでしょう?

 

 2つはどちらも同値類 { \displaystyle [1, 2] } の要素ですから, 商集合の立場で考えれば同じものと見なされます.

 一方 { \displaystyle (1, 2), (2, 4) } として見れば明らかに別物です.

 

 同値関係が絡む関係では, それが等しいのか, それとも同値であるにとどまるのか…で同じ場合とそうでない場合が考えられるわけです.

 

 「有利化によって等しくなるんだから同じ」というのも正しいですが, これは翻って言えば「有利化によって等しくなるから同じとみなせる」ということです.

 

 

 数学には「当たり前なようで難しい」概念がたくさんあります.

 常識だと思っていても一歩下がって考えてみると, 世界が広がり, 発見があるかもしれません.